見下ろしたセカイはごたごたしていて、細かい点が忙しなく動き回っている。
其処に何の感動も無い。
ただ、ぼーっと眺める。
成長しきった大人が、足元の蟻の大群を眺めるのに、それは似ていた。
軽い蔑みも優越感も、まして劣等感など感じることはなく、ただ視界に入っては出て行くだけの繰り返し。

何も感じない。
何も思わない。

この穢れきったセカイに、元より何も求めてはいないのだから。



屋上の、飛び降り禁止のつもりなのだろうが全く意味を成していない柵に堂々と腰掛けて、髪を掬い上げる風を真正面から受ける。爽快な充実感が、穴の開いた心を一瞬だけ埋めようとした。
勿論壊れたココロにはそんなもの無意味だったけれど。


・・・・蟻はどうして生きるんだろう。

ふと、先程の考えから発展した、くだらない命題が脳裏を過ぎる。
これからこの命を投げ出そうというのに、最期に考えるのがこんなことだったなんて、きっと家族が聞いたら泣くだろうねと自嘲する。もっとも、嘆いてくれるような家族なんて生憎持ち合わせていなかったけど。

忙しなく働いて死んでいく蟻。其処に娯楽も快楽も無い。
人間から見ればおおよそ無理な生き方だ。
どうして生きていけるのだろうと思う。

・・・・・じゃあ、人間は何故、何の為に生きるんだろう。
他人の為。そんなことは決して無いだろう。
他人をかばって死んで逝った誰かさん達も、それは確かに他人の為でもあるかもしれないけれど、最終的にはその人を護りたいという自分の意思で動いて死んだわけだから、自分の為、自分の意思の為に死んで逝ったことになるのだろう。

蟻なんて、もしかしたらきっと単純。
働かないと死ぬから、働いて生きる。
死にたくないという本能が、蟻を死ぬまで働かせる。
結局最期に在るのは、どんな道を辿ったところで「死」以外には有り得ないのに。

人間は「考える」から、もっと複雑で面倒で穢れた生き方をする。
損得を考え、苦楽を考え、生死を考える。
蟻のようにただ生き抜くためだけに生きるなら、限りなく純粋なのに。
まるで焦がれるようにそう想いつつ、けれどそんな純粋なんて人間は誰も求めない。

人間はそれぞれ、自分の意思で動き、自分の為に生きていく。
人間の意志なんて人それぞれだから、それこそ生きる目的なんて十人十色だ。

適当に自分の欲求を満たして生きて、偶に逸脱し過ぎた行動をとれば適当に罰される。

じゃあ僕も、間違っては居ない。
僕は僕の意思で今日まで生きて、僕の意思で今死ぬのだから。
其処に悲愴も苦痛も無い。
ある種の進路選択であり、そして自分の決めた道を進むことが出来るという喜びですらある。

誰も、望んで生まれることは出来ない。
けれど生まれてしまった以上は、自分の意思で生きることを、そして死ぬことを決める権利くらいはある。

見上げれば、まるで精一杯の蒼。
今初めて、自分が生きていることを確認できた気がした。



最期に望むなら、せめて誰よりも高く飛んで、誰よりも早く堕ちていきたい。








バイバイ、つまらないセカイ。
















高層ビルの屋上からジャンプ



清々しいほどの落下音に身を任せて。





鬱。

(2007 / 8 / 3 By RUI)
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