Humpty Dumpty sat on a wall.

Humpty Dumpty had a great fall.

All the king's horses and all the king's men

Couldn't put Humpty together again.







ハンプティ=ダンプティの憂鬱






「ミスト、何を読んでいるんですか?」

声色にはまだ存分に幼さが残っているのに、口調がそれを子供と感じさせない矛盾した印象を受ける。長年の付き合い・・・といえるほどまだ自分もこの世で過ごした時間は長くないが、それでもこの世に存在した瞬間からずっと共に在った声は、聞けばその主もすぐに判る。

「詩、を」

決して素っ気無くしているわけではないのだが、生憎自分は双子の相方と違って会話が不得意だ。長い単語も口に出すのが億劫な為に、出来るだけ短く問いに答える。
相方もそれを判っているし、自分達が神の手によって「創られた」時からこうして会話は成立されてきたのだから、今更それを不快に思うことも無い。

「珍しいですね。何の詩ですか?」

仕事が無いからだろうか、普段は共には在れど、こうして何気ない会話をすることは極端に少ない。サラサ他、話題を振る仲間が居る時はともかく、そういえば仕事の話以外でこうして二人で会話したのはいつ以来だろうと考えてみると、思い出せない。


「・・・・・久し振り、ね」

思わず思ったことを言葉にすると、さすがにこれには相方・・・・リストも小首を傾げた。

「大概毎日会っていると思いますが・・・・?」
「・・・・違う。二人で、会話、を、するの、が、久し振り」

色々言葉は抜けていたが、そこまで言えばようやくリストも理解してくれたようで、「ああ」と頷いてみせる。

「そういえば、そうかもしれませんね」

少し考えを巡らせてからそう答えられる。具体的な数字が出てこない辺り、リストも最後にこういう会話をしたのがいつだったのか思い出せないのだろう。

「今日は僕達何もすることないですし、久し振りにお話しましょうか」

不意にリストが提案し、元々私がそれを断る理由も無いと判ってか、答えを聞かずに豪奢なソファの隣へと腰を下ろす。だが、二人で座っても充分広すぎるソファで、二人の間には微妙な距離が空いている。そう離れているわけではないが、決して近くない。これが自分とリストの心の距離なんだと実感したが、そこには何の感動も無い。




  『双子が一心同体なんて、幻想ですよ』


・・・・・ふと脳裏に、先日のゲームでリストが言った言葉が蘇る。


  『僕にミストの考えていることは判らないし、ミストにも僕が考えていることは判らない』

それは確かにその通りで、別に何の異存も不快も無い。
さすがにリストはその後に続くべき言葉を言わなかったし、自分は口下手だから言えないけれど。
もし私がリストと同じだけ舌が回るなら、その後続く言葉も言っただろう。




  『私にリストは不要だし、リストに私は不要だから』 と。


そう。自分達にとってお互いは不必要。
今は仲間だから共に居るだけ。
同じ仕事をするから顔を合わせるだけ。
敬愛する共通の主君に仕えているから、こうしているだけ。

リストがあの時言ったように。
私も、リストが主に楯突くようなことがあれば、何の躊躇いもなくリストを殺すだろう。
リストが同じく私を殺すように。




「私達は、このゲームで、死ぬ、のかな?」

絶望も悲壮も皆無の表情で、いつもの「他愛ない」会話と同じようにリストに問いかける。
無論彼が動揺する様子も無い。

「僕らが死ぬということは、ゲームに負けるということですか?」
「・・・・・・・・・・・」
「だったらそれは許されません」

ゲームへの敗北は、我等が主君の期待を裏切ることですよ、と付け加えられる。
返せる言葉が見つからず、しばし沈黙の海に沈む。
先に口を開いたのは、やはりリストの方だった。


「僕らは何を犠牲にしてでも勝たなければいけません。主の為に。そして勝利するということは生き延びるということ。僕らはゲームを続ける限り負けてはいけないし、ひいては生き延びなければいけません」


まるで生き延びることが大罪だとでも言うように、リストは咎人の笑顔を浮かべた。


「判っ、た」



短い私の一言で会話は締め括られ、私の視線は本に、リストは部屋の外へと出て行った。















   Humpty Dumpty sat on a wall.

   ハンプティ=ダンプティは塀の上


   Humpty Dumpty had a great fall.

   ハンプティ=ダンプティは落下する


   All the king's horses and all the king's men

   王様の兵隊全てでも、持つ馬全てを集めても


   Couldn't put Humpty together again.

   ハンプティを元には戻せない。















死ぬことは罪。

生きることは罪。







「・・・・・もう、戻らない」






――――呟きが相方の耳に届くことは、決して。


これ書く途中まで、ちょっとした勘違いで
ハンプティダンプティは双子だと思ってました;;
途中で思い出して書き換えー;;
中途半端に書き換え前の文章残したら、後半繋がりがおかしくなったー;;

( 2007 / 6 / 30 )
inserted by FC2 system