――――――ナイトメアが風邪を引いた。


ナイトメアは塔の中にある私の部屋で、高熱に魘されながらも眠りについている。
替えのタオルの用意だとか雑用的な仕事は人形に任せて、私はただじっとナイトメアの隣に寄り添って寝転がっていた。つまりは添い寝。

ナイトメアが起きたら、そしてマトモに思考回路が動いていたら、きっとすぐさま「部屋から出て行け」というだろう。そうでなくとも、ベッドからは出ろというだろう。「伝染るから」、と。・・・・酷い話だ。此処は私の部屋だというのに。

自分の部屋から自分が追い出される所を想像して、久遠はくすりと笑う。

・・・・・・・・熱い。
ナイトメアは無意識の内なのだろうが、男性にしては些か細すぎる、そして白すぎる両腕はしっかりと久遠の身体に回され、その服を掴んでいた。
久遠は体温が低い。低体温とか冷え性だとか、そんなレベルじゃない程度に。
平均体温は22℃を誇る。
そしてナイトメアは40℃の高熱を出していた。
その体温差、18℃。

ナイトメアにしてみれば、久遠に抱きつくことは火照った身体にひんやりした水を浴びているような物だ。無意識に抱き締めてしまっても不思議は無い。


「・・・・・私は、熱いんだけどね。」

自身の体温より18℃も温度が高い物体に抱き付かれてるのだ。このまま溶けちゃったらどうしよう。・・・・なんてくだらないことを考えながら、ナイトメアの頬を撫でてやる。
小さいコドモのようなすべすべの肌触り。整った顔立ち。
そして、枕の上に無造作に広がる、しなやかな銀色の長い髪。

この人は本当に男なんだろうか?と思うのに充分な美しさ。


彼の腕に抱かれながら溶けて死んでしまえるのなら、むしろ本望だと想ってしまう自分が其処にいた。



いつかはこのぬくもりも忘れてしまうのだろうけれど。
彼を私から奪おうとするセカイなんて、この左手で壊してやるから。






この一瞬を永遠に




殺人ドール。
(2006 / 10 / 27 By RUI)
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